地図アプリのずれ、幻の万博、燃料電池船、そして群馬そのものの魅力——
群馬県の入試問題を読んでいると、教科書の外にある話題が、あちこちに顔を出していました。
4教科の中から、特に引き込まれた4つの問題を紹介します。
1英語|たった1つのアイデアが、誰も来なかった図書館を変えた
英語は、単語や文法を正確に読み取る教科だと思われがちです。
ですが大問6は、本文を読み解いた上で、その内容を踏まえた”別の会話”を英語として成立させる力が試される出題でした。
生徒の来ない学校図書館を活気づけようと、中学生のRyotaと友人Harutoが試行錯誤の末、「メッセージカード」(読んだ生徒の感想を本に挟んでおく)というアイデアで生徒を呼び戻す——というあらすじです。
最後の設問(3)は、この本文の内容を踏まえて、Ryotaの友人Kentaが森先生と交わす別の会話の空欄を埋めるものです。
本文の一節をそのまま抜き出せば済むのではなく、出来事を正しく解釈した上で、その解釈を新しい会話の文脈に自然に収まる英文として書き直す必要があります。
特に空欄B(10語ちょうど)は、本文最後の一文にある「小さなアイデアでも人の行動を変えられる」という気づきを、指定語数にぴったり収める形で言い換える設問。
本文解釈力と、それを会話として成立させる構成力の両方が試されていました。
2数学|地図アプリの「時間」は本当に正しいか
数学は、実生活とは遠いところにあると思われることが多い教科です。
しかし、今年の大問4は、スマートフォンの地図アプリという身近な道具の「誤差」に関する問題でした。
亜衣さんは、地図アプリが示す所要時間と、実際に歩いてかかった時間との間に”ずれ”があることに気づきます。
このずれが一定の大きさになるのは道のりが何mのときか——という問題でした。
信号待ちや坂道、歩く速さの違いなど、正確に時間を予測しようとすると意外に多くの要素が関わってきます。
普段何気なく信じているアプリの表示にも、比例というモデル化のための単純化が隠れている——。
そんな前提を確かめてみる姿勢は、数学の授業だけでなく社会に出てからも役立つ視点かもしれません。
3理科|万博で見た船が、教科書とつながる
大問4は配点20点に対し平均点9.9点、得点率は5割程度と他の大問と比べてやや低めでした。
長文を読み解く必要があることや、メタンハイドレートという聞き慣れない物質が登場することが、その一因かもしれません。
舞台は、大阪・関西万博という身近な体験です。
守さんは、家族と大阪・関西万博を訪れた際に、水素と酸素を反応させて電気を作る燃料電池船を見て興味を持ちます。
後半ではメタンハイドレートやアンモニアといった新しいエネルギー資源も紹介され、特にアンモニアは酸素と反応しても窒素と水しか発生しません——もともと炭素を含まないため、燃やしても二酸化炭素が出ないのです。
「なぜ二酸化炭素が出ないのか」の理由をたどると、炭素そのものが存在しないという単純な答えに行き着きます。
仕組みを知ると、ニュースで聞く「クリーンエネルギー」という言葉の意味が少し具体的になります。
一昔前は、化学反応式を暗記しておけば済む問題が多い印象があったのですが、近年は多くの入試問題で、暗記していない化学反応について問われる傾向があります。
これは、その場で資料を読み、理解し、転用して回答するという能力が求められているのだと感じます。
4社会|85年間有効だった、幻の万博のチケット
社会は暗記科目だと思われがちです。
ですが大問5は、配点15点に対し平均点8.2点、得点率54.7%と、社会の7つの大問の中でもやや低めでした。
テーマは「万博(万国博覧会)の歴史」。
1851年、世界初の万博がロンドンで開かれ、日本が初めて公式参加したのは1873年のウィーン万博でした。
1940年には日本での開催が決まっていた万博が、日中戦争の拡大によって開催直前に中止——「幻の万博」と呼ばれるようになります。
ところが2025年、大阪・関西万博(理科の大問4に出てきた燃料電池船の話とも重なります)では、決められた手続きを済ませれば、あの1940年のチケットで実際に入場できるというニュースが話題になりました。
さらに1970年の大阪万博では、アメリカとソ連がそれぞれ宇宙開発の成果を展示し、当時の冷戦の空気を映し出していた——という話も続きます。
1851年から2025年まで、170年以上にわたる5つの万博を横断し、それぞれがその時代の政治や社会をどう映していたかを読み解く構成です。
年号や出来事をバラバラに覚えるだけでは太刀打ちできず、点在する出来事を時代の文脈でつなげる力が求められていた——それが、得点率がやや低くなった理由の一つかもしれません。
一枚の紙が、その時代の政治や社会の状況によって「幻」にされたり、後の時代に本物として受け入れられたりする——歴史は、こうした思いがけない巡り合わせも運んできます。
5まとめ
地図アプリのずれ、幻の万博のチケット、燃料電池船、そして群馬そのものの魅力——どれも教科書の外にある話題です。
入試問題は、そうした日常や歴史の断片を、教科の視点でもう一度見つめ直すきっかけをくれているのかもしれません。
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