岡山県の入試問題を読んでいると、看護師の留学、桃のマークを描く数式、2000年前の王冠、コーヒー豆と標高の関係——教科書の外にある話題が、あちこちに顔を出していました。
英語・数学・理科・社会の4教科の中から、特に引き込まれた4つの問題を紹介します。
1英語|患者を助けられなかった24歳の看護師が、5年後に見つけたもの
岡山県の英語は総英文量が全国トップレベルで、今年は長文・読解の問題が3題出題されました。
その中のひとつ、大問5は、一人の看護師が人生の転機をどう乗り越えたかを追いかける、長いスピーチ原稿でした。
高校生のSatoruが、尊敬する人物として紹介するのは、近所に住む看護師の加藤さんです。
加藤さんは24歳のとき、英語しか話せない外国人患者に何もしてあげられなかった経験をきっかけに、「もっと良い看護師になりたい」と一念発起し、26歳でオーストラリアへ留学します。
慣れない環境での勤務に苦しんだ時期もありましたが、同僚の看護師から「あなたが日本とオーストラリアの経験で身につけたスキルは、私たちや患者を助けている」と声をかけられ、前向きに働けるようになりました。
帰国後、自分の街の病院で実際に外国人患者を助けられた加藤さんは、Satoruにこう伝えます——「自分を成長させる機会は、どこにでもある」。
最後の設問は、加藤さんの話から得た気づきに通じる一文を、本文中から6語で抜き出すものでした。
単語や文の意味を個別に追うだけでなく、加藤さんの経験全体を通して浮かび上がるメッセージをつかむ力が求められる問題です。
「自分を成長させる機会はどこにでもある」——それは、24歳の加藤さんが助けられなかった一人の患者から受け取った気づきでした。
身の回りの小さな出来事にも、同じような機会が隠れているのかもしれません。
2数学|直線と放物線で、桃の絵を描く
数学は、関数や方程式など立式して計算で答えを求める教科と思われがちです。
ですが大問3は、直線と放物線を組み合わせて、一つの絵を描き上げる出題でした。
太郎さんと花子さんは、方眼紙の上に、桃をかたどったマークを描こうとしています。
葉の部分は直線と放物線で、実の部分は円で表現します。
まず、ある点を通る直線と放物線を使って片方の葉を描き、それを対称移動させてもう片方の葉を作ります。
次に、実(丸い部分)の中心を求めるために、葉の直線に垂直な線を考え、その直線がどの点を通るかを方眼から読み取っていきます。
グラフの傾きや切片、比例定数の大小関係を考えたり、垂直な直線の式を求めたりする作業。
単なる計算ではなく、「絵として成り立たせるには、数式をどう組み合わせればよいか」という設計的な思考が求められる問題でした。
数式は、答えを一つ求めるためだけの道具ではなく、形を作り出すための道具にもなる——桃の絵を描く2人の会話から、そんな数学の面白さが見えてきます。
3理科|2000年前の王様が、金の王冠を疑った理由
大問1の一問は、古代ギリシャの逸話から始まる出題でした。
古代ギリシャの科学者アルキメデスは、浮力の原理を利用して、純金でできた王冠と、金に銀を混ぜてかさ増しした王冠とを見分けたと言われています。
金の密度は1立方センチメートルあたり19.3g、銀の密度は10.5gです。
同じ質量の金と銀を比べると、銀の方が体積は大きくなり、水中に入れたときに受ける浮力も銀の方が大きくなります。
この浮力の違いから、王冠に銀が混ざっているかどうかを見抜いた、という逸話です。
目に見えない「密度の違い」を、浮力という目に見える現象から見抜く——2000年以上前に生まれたこの発想は、現代の入試問題の中にもそのまま息づいています。
金の王冠を怪しんだ王様と、それを確かめたアルキメデス。
この問題が教えてくれることは、単に「テストで点数を取るため」や「暗記するため」だけではありません。
科学的な視点で現象の本質を見極める力、複雑な世の中を生き抜くための思考の引き出しを増やしていくという、学びの真価ではないでしょうか。
4社会|同じ緯度なのに、なぜ気温が違うのか——コーヒー豆と標高の関係
社会は暗記科目だと思われがちです。
ですが大問2は、雨温図の温度の変化だけから、目に見えない「標高」を推理する出題でした。
赤道から北緯25度の間に位置する3つの都市P・Q・Rについて、雨温図を比べる問題です。
都市Rは、都市P・Qと同じような緯度にあるにもかかわらず、月ごとの気温の変化のパターンから、標高が高い場所にあると考えられます。
岡山県教育委員会の結果報告書によれば、この設問の正答率は29.0%でした。
「赤道に近い=一年中暑い」という思い込みだけでは対応できず、気温のデータから標高という別の要素を読み解く必要がある問題です。
こうした赤道に近く標高の高い地域は、実はコーヒー豆の生産に適した気候でもあり、北緯25度から南緯25度にかけての地域に主要な生産地が集中しています。
ですが地球温暖化の影響で、コーヒー豆の生産に適した土地は将来半分ほどに減ると考えられているそうです。
雨温図の小さな凹凸から、標高という目に見えない地形が見えてくる。
そして、その標高が生み出す気候が、私たちが毎日飲むコーヒーの未来にもつながっている。
そんな連鎖に気づかせてくれる問題でした。
5まとめ
看護師の留学、桃のマークを描く数式、2000年前の王冠、コーヒー豆と標高の関係——どれも教科書の外にある話題です。
入試問題は、そうした日常や歴史の断片を、教科の視点でもう一度見つめ直すきっかけをくれているのかもしれません。
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